糖尿病とインスリン注射
インスリン注射とは?
インスリン注射と聞いただけで、“怖い、嫌だ”と拒絶される患者さんがほとんどです。しかし、昔に比べインスリン注射は進歩して簡単に、また安全に注射する事ができます。初めから拒絶しないで説明を聞いてみましょう。
現在のインスリン注射の主流は、万年筆型の注射器です。万年筆のインクがインスリンで、ペン先が注射針となっています。万年筆とほぼ同じ大きさですので、どこにでも持って行けます。針も糸のように細い針ですので痛くありません。注射をする場所は主に腹部です。太ももや腕にも打つことも可能です。
インスリンの種類
インスリンは効果発現の速さから超速効型、速効型、中間型、持効型、混合型(超速効型または速効型と中間型を混ぜたもの)製剤に分類されます。例えば、超速攻型ノボラピッドを注射すると、10分後から効果が表れ、1~3時間後が最大効果となり、5時間後には効果がなくなります。インスリンの特徴を知っておきましょう。
- 1.超速効型(注意:食事の直前に注射しましょう)
- ノボラピッド、ヒューマログ、アピドラ、ルムジェブ 等
発現時間‥10~20分、最大作用時間‥1~3時間、持続時間‥4~5時間
- 2.速効型(注意:食事の20~30分前に注射しましょう)
- ノボリンR、ヒューマリンR 等
発現時間‥約30分、最大作用時間‥1~3時間、持続時間‥5~8時間
- 3.中間型
- ノボリンN、ヒューマリンN 等
発現時間‥1~3時間、最大作用時間‥4~12時間、持続時間‥18~24時間
- 4.持効型溶解
- トレシーバ
発現時間‥該当なし(定常状態)、最大作用時間‥明らかなピークなし、持続時間‥42時間超
- ランタス、インスリングラルギン、ランタスXR
発現時間‥1~2時間、最大作用時間‥明らかなピークなし、持続時間‥約24時間・24時間超
- レベミル
発現時間‥約1時間、最大作用時間‥3〜14時間、持続時間‥約24時間
- 5.混合型
- (A)ノボリン30R、ヒューマリン3/7 等(30R、3/7は、速効型30%、中間型70%のこと。混合比の異なる種類がある。注意:食事の20~30分前に注射しましょう)
発現時間‥約30分、最大作用時間‥2~12時間、持続時間‥約24時間
- (B) ノボラピッド30ミックス(超速効型30% 中間型70%。注意:食事の直前に注射しましょう)。ノボラピッド50ミックス、ヒューマログミックス25注、50注(超速効型と中間型の混合比の異なる種類がある)
発現時間‥10~20分、最大作用時間‥1~4時間、持続時間‥約24時間
- 6.配合溶解
- ライゾデグ配合注。超速効型と持効型インスリンを混合したもの。
発現時間‥10~20分、最大作用時間‥1~3時間、持続時間‥42時間超
血糖のピークとインスリンの最大作用時間に著しい差が生じると、低血糖を生じやすくなります。また、運動や注射部位の違いで思ってもみない時間に低血糖を起こすこともありますので注意しましょう。使用しているインスリンの特性を十分理解して使用しましょう。注射の時間や注射部位は主治医に相談しましょう。
注射の必要な人は?
(1) 必ずインスリン注射が必要な人:1型糖尿病の人、糖尿病昏睡や重症感染症の人、糖尿病合併妊婦 等
(2) インスリン注射に変更した方が良い人:経口薬で血糖のコントロールが悪い人、ステロイド治療時に高血糖を認める場合、手術前後に高血糖の改善が必要な場合 等
注射針は同じ?
注射針も様々な種類のものがあります。太さや長さが異なります。例えば、31G8mmはやや太めで長さが8mmの針。34G4mmは長さが4mmの細い針です(31GのGは太さを表します・数字が大きい程細い針です)。細い針ほど痛みは少ないです。皮下脂肪厚さ、インスリンの量、注射部位などを考えて自分に合った針を選びましょう。
注射は1日1回でいい?
持効型1日1回注射もあれば、超速効型インスリンの毎食前3回注射、混合型や中間型インスリンの朝夕1日2回注射、超速効型インスリンの毎食前と就寝前に持効型インスリン注射の4回注射など、患者さんの状態に応じて注射回数やインスリン量、インスリンの種類を決定します。インスリン療法と経口薬療法を併用する治療もあります。
血糖自己測定
血糖自己測定(SMBG:self-monitoring of blood glucose):腕の内側や指先に専用の針を刺し、少量の血液で血糖を測定します。血糖コントロール状態の把握や、インスリン量の決定の参考にします。最近の測定器は痛みなく測定できます。体調の悪い時や低血糖を疑った時、sick dayの時は病態の把握に役立ちます。
持続血糖モニター(CGM/isCGM):持続血糖モニターは、連続して皮下の間質液のグルコース濃度を測定し、血糖値を推定することができる装置。夜間や早朝の低血糖や食後の血糖スパイクをモニターすることができます。持続血糖モニターでビックリ!のページもご覧ください。
患者さんが気をつけること
低血糖:インスリン療法や経口血糖降下薬使用中の患者に起こる可能性があります。発汗、不安、動悸、頻脈、生あくび、目のかすみなどの症状がおこります。低血糖と感じたら、我慢せず、すぐにブドウ糖やブドウ糖を含むジュースなどを服用しましょう。血糖を測定できれば測っておきましょう。症状が改善しても早めに主治医に相談してください。
*注意:高血糖の人で急激な血糖変動が生じると、血糖値が70以上あっても低血糖症状が起こります。車を運転する時には、低血糖症状を感じたらすぐに車を止めてブドウ糖を摂取しましょう。事故を起こす危険性があります。激しいスポーツの途中、時間が経っていても突然低血糖を起こすことがありますので注意が必要です。
Sick day:糖尿病の治療中に発熱、下痢、嘔吐などで食事が取れなくなった時を Sick day と呼びます。このような時は、十分水分を摂取し、消化の良いおかゆやジュース、アイスクリームなどを取るようします。突然インスリン注射を中止せず、血糖を測定し、病状の把握をしましょう。放置すると、著しい高血糖になったり、ケトアシドーシスという代謝異常が生じて昏睡に陥ることもあります。早期に主治医に相談しましょう。
糖尿病昏睡:著しい高血糖により倦怠感や胃腸症状などの前駆症状のあとに、意識障害、昏睡状態となります。至急主治医に相談して入院治療が必要です。
※低血糖、Sick day の時の対応は、必ず事前に主治医より聞いておいてください。